ソフィアバンク副代表・藤沢氏インタビュー、「投資の常識疑うべき」

2012-10-02

藤沢 久美 氏

藤沢 久美 氏

シンクタンク・ソフィアバンク 副代表

国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。99年同社を世界的格付け会社に売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。現在、副代表。03年社会起業家フォーラム設立、副代表。07年ダボス会議を主宰する世界経済フォーラムより「ヤング・グローバル・リーダー」に選出され、30カ国を訪問。グローバル視点での経済や経営のあり方を発信中。

 「リーマン・ショックで完全にルール設定がなくなった」――。シンクタンク・ソフィアバンク副代表の藤沢久美氏はこう述べる。グローバルな政治・経済の動向に精通する同氏は、リーマン・ショックを経て世界統治の仕組みが大きく変わりけん引役不在の時代に突入したと指摘。世界経済が不安定化するなか、長期投資や地域分散、分配金再投資による複利を生かした運用といったこれまでの常識が揺らいでいるという。新しい時代に個人投資家が資産形成の指針とすべきものは何か。そのヒントを藤沢氏に聞いた。

――超低金利が続き、株価も低迷するなか、個人投資家が置かれている状況についてどう考えるか。

 「いまは資産運用がとても難しい。そもそも世界が安定していないので、長期投資が機能しにくくなっている。長期で考えるなら積立をやるしかない。タイミングを見て買って長期で儲けるのは大変だ。分散投資は間違っていないが、分散だけでなく積立を両方セットでやっておいた方がよい。積立であれば多少の価格変動リスクを抑えられる」 

 「分散投資によりリスクを減らせるとした現代ポートフォリオ理論が脚光を浴びたのは、レーガン米大統領、サッチャー英首相、日本の中曽根首相という美しい3極があったまさにG7の時代だが、いまはリーダーがいないGゼロの時代。国際会議に出ると、この先どうなるか分からないとみんな言っている。これだけグローバル化したいま、世界をどう統治するかが見えない。かつてはG7、G8の国々がある程度のルール設定をしてそれに従って世界が動いていたけれども、リーマン・ショックで完全にルール設定がなくなった。米国やEU(欧州連合)それぞれのルールはあるが、例えばEUの財政が大変なことになったときに誰がどこまで助けるかとなるとルールはない」

 「確かに地域を選んで投資するのも大事だ。しかし、分散すればとりあえず資産が増えるという世界でなくなったいまは、新しい常識を作っていく企業を探して株を買った方がよい。地域分散ではなく企業分散といった発想が必要ではないか。一方、インデックス運用はどうかと言えば、連動する指数に大企業が入りすぎていて、イノベーションを起こすベンチャー企業が入っていない」

先行き不透明な時代、見直される分配金の役割

――投信は分配金再投資で複利を生かした方が効率的に資産を増やせると言われるが、依然として有効な投資法か。

 「分配金再投資で資産が増えるのはある程度右肩上がりのマーケットの話で、大きく上げたり下げたりする相場で再投資をしても全然効果はない。再投資で利益を受け取らずにいると、大幅に値下がりしたときかなり損をしてしまう。逆に、上がった分を分配金でもらっておけばその度利益確定をしているのだから急に下げたときの損は比較的小さくなる。毎月分配金という仕組みそのものは運用の効率性を考えるとナンセンスだが、いまのように先が読みにくい時代、特に投資初心者が投信を買うのであれば利益が出たときに分配金としてもらっておくのもよい」

 「20世紀後半に語られていた投資の理論や常識はリーマン・ショックで否定されたり、見直しを求められたので、一度疑ってみるべきだ。債券と株式は違う値動きをすると言われていたものが、10年ほど前から結構連動している。また、世界に分散すればよいとされていたはずが、情報化社会でさまざまなものが関連性を持ってきたことで分散効果がなくなってきた。経済の分野では現代ポートフォリオ理論よりも、ノーベル経済学賞などを見ると分かるように行動ファイナンスに関心が移ってきている。行動ファイナンスは情報が人の行動を左右するという前提に立ち、色々なものを予測する理論で、従来とは異なる常識のうえに成り立っているが、日本ではいまだに古い常識にとらわれている」 

――投資や経済の本に書いてあることが答えではないということか。

 「その通りだ。いまは常識がない発明の時代。世界中の人達がデファクト・スタンダード(事実上の標準)を探しているが、探してもないから発明しなければいけない。色々な人が発明にチャレンジし、そのなかからより多くの人がよいと思ったものがデファクトになっていく。そういう意味では非常におもしろい時代だ。自分が発明したものが今後50年、100年のデファクトになる可能性がある」

 「投信会社でもひふみ投信を運用する藤野英人さんやコモンズ投信会長の渋澤健さん、鎌倉投信が取り組んでいることは、ある意味新しい投資理論の発明だ。過去の経験に基づきながら、現場主義を貫き、未来はこうあるべきと理想を持って運用している方々であり、そうした試みにヒントがある。逆にビジョンも何もなく昔の延長線上で運用されているファンドは参考にしない方がよい」

投信の普及、国の取り組み重要

――投信業界の課題についてどう考えるか。

 「投信会社は販売のスタイルを変えていく必要がある。新しい投信をどんどん作り、その度に乗り換えを勧める仕組みでは投資家も育たないし、営業する側も信頼を得られず勉強も追いつかないので業界全体としてはプラスに働かない」  

 「また、国の仕組みとして投信を若い世代から使えるようにするべきだ。長期資産運用のための国の仕組みとして日本版ISA(注)や401k(確定拠出年金)を活用し、すべての国民が投信のような資産運用の手段について理解する土壌を作れば、銀行や証券による投信の販売も効率的になる。401kに加入しているのは大企業の一部でそれ以外の中小企業の年金がもっと大変な状況なのだから、中小企業に401kをどのように広げていくか。401kで購入した投信の非課税措置を拡充するなど、国が制度面で投信をどう普及させるかが重要だ」

(注)日本版ISA:14年1月に導入が予定されている個人投資家向けの非課税制度。英国のISA(個人貯蓄口座)を参考にしたことから日本版ISAと呼ばれる。16年末まで3年間の時限措置で、上場株式など(公募株式投資信託含む)を対象に毎年100万円までの新規投資について配当や譲渡益が10年間非課税になる。

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