ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―投資を始める前の「家計診断」を自分でやる方法

2013-01-11

 身もふたもないお話ですが、世の中には、家計的に投資をやっていい人と、やらない方がいい人の二種類がいらっしゃいます。

 ところが、家計的に投資をやっていい人がひたすら貯金に勤しみ、本来やらない方がいい人が熱心に投資して苦戦しているケースがしばしば見受けられます。投資を始める前の、この出発点の判断を間違えると、将来、苦しい局面に追い込まれかねません。「投資は自己責任で自由にやればいい」という考え方もありますが、なにか合理的な判断基準のようなものはないのでしょうか。

金融機関は教えてくれない「家計診断」の方法

 そのヒントは、企業会計で使われている貸借対照表(B/S)と損益計算書(P/L)です。それは、企業のお金の流れを適切に把握するための、先人たちの知恵の結晶とでもいうべきもの。これを家計にも当てはめてみればいいのです。大幅に簡略化すれば誰でもできます。

 しかしながら、本質的な家計診断は、できるだけ多くの投資家にお金を預けてほしい金融機関側にとって都合が悪く、積極的に語られることはまずありません。今回は、私が今までいろいろ見てきた中で、いちばん簡単な方法をご紹介します。

自分でやる家計診断に必要な数字は6つだけ

 以下の数字をざっくりとで構わないので把握します。コツはざっくりと把握し、厳密に考え過ぎないことです。あくまで家計の全体像を把握することが目的なので、ざっくりとでいいんです。厳密にやろうとすると年間支出の項目で挫折します。

(1) 金融資産(預貯金・国債・株など数日で換金できるもの)
(2) 実物資産(不動産や高級車などをざっくり時価換算したもの)
(3) 短期負債(銀行や消費者金融のカードローンやキャッシングなどの残高)
(4) 長期負債(住宅ローンや自動車ローンなど数年以上にわたる借金)
(5) 年間収入(給料などの収入。額面ではなく手取り額で)
(6) 年間支出(ざっくりとで構わない)

 それを、以下の図表「家計のバランスシート」「家計の損益計算書」にプロットします。

 そして、
(X) 自己資本=(1)+(2)−(3)−(4)
(Y) 年間余裕額=(5)−(6)
を計算しましょう。計算といっても、足し算と引き算だけなのでそんなに難しくないと思います。金額をプロットしたら、金額の大小に合わせて多少ハコの高さを変えて、図を手書きしてみると分かりやすいです。

家計のハコの形で分かる、投資に適さない家計とは?

 では、家計診断開始。典型的な家計のパターン別に、投資に適しているかどうかを説明します。

≪パターン1≫ 短期のローンで不健全な家計

≪パターン1≫ 短期のローンで不健全な家計

 (3)短期負債(カードローンやキャッシング)が多く、(X)自己資本や(Y)年間余裕額がほとんどない家計は、残念ながら投資には適していません。カードローンやキャッシングの金利は10%以上ある場合が多く(個人の信用状況により異なりますが)、投資の期待リターンの水準(数%)をはるかに上回ります。比較以前の問題です。FPなら、まずは生活を見直し、これら短期負債を返済することから始めるべきなどとアドバイスするところでしょう。

≪パターン2≫ 住宅ローン残高が多い家計

≪パターン2≫ 住宅ローン残高が多い家計

 住宅を買ったばかりで住宅ローンがあと何十年も残っており、最終的な返済額が大きい。多少の年間余裕金額はあるが、現時点では、返済予定額が資産額を上回っている。そんな状態です。
 (2)実物資産と(4)長期負債が同じ金額じゃなければおかしいじゃないかと思われるかたがいらっしゃるかもしれませんが、長期の住宅ローンでは最終的な返済額が住宅自体の時価よりもはるかに大きくなります。

 金融機関側はハッキリとは言いませんが、住宅ローン残高が大きい家計は、投資には適していません。
 上記の表の状態は、企業に置き換えたら、実質的に「債務超過」の状態です。債務超過だからといって、即、倒産するわけではありませんが、なんらかの改善が求められる不健全な状態であることは間違いありません。
 FPなら、投資どころではないので住宅ローンの返済を進めるべきですなどとアドバイスするところでしょう。

 「そんなこと言ったって、祖父母も両親も、みんなそうやってきたじゃないか」
 たしかに、少し前までは、日本の若者世代の標準的な家計の形だったのかもしれません。
 しかし、時代が変わっているのも事実です。

 昔は、購入した不動産は放っておいてもどんどん値上がりしていき、同時に激しいインフレにより、借金の実質的な負担もどんどん小さくなっていく、という幸せな時代が過去何十年か続いていました。しかし、それも長い日本の歴史から言ったらほんの一時期に過ぎません。現在の消費者物価指数(CPI)や地価の動向を見るにつけ、今後もそれが期待できるかどうかは甚だ疑問です。

 実際は住宅ローンで家を買う方々はとても多いです。金融機関が上記のようなことを言ってしまうと、顧客が半減してしまうので、まず言うことはないでしょう。また、当コラムでも、上記のようなことは多くのかたの反感を買うことは承知しています。でも、これから投資を始めようというかたには、目を背けないでぜひ知っておいてほしい現実です。

つい投資を始めたくなるが、理解が問われるハコの形

 次は、損益計算書(毎年のお金の収支)だけ見ると、つい投資を始めてもいいような気になってしまうが、そのためには投資について誤解なく現実を知っていなければ危険という家計です。

≪パターン3≫ ギリギリプラスのローン家計

≪パターン3≫ ギリギリプラスのローン家計

 パターン2から住宅ローン返済が進み、(4)長期負債が減ってきて(同時に、(2)実物資産の価値も減ってきますが)、資産と負債がバランスし債務超過ではなくなった状態です。
 (1)金融資産として少しは預貯金があるし、(Y)年間余裕額もそれなりある。このような状態では、「そろそろ投資でも」となりやすい時期でもあると思います。

 しかし、厳しいかもしれませんが、この状態でも投資には適していないと思われます。株価や債券価格が少し値下がりしただけで、(1)金融資産が目減りし、すぐにパターン2の債務超過状態に逆戻りする可能性を抱えている状態とも言えるからです。投資する前に、(Y)年間余裕額の範囲で住宅ローンの返済をして、(4)長期負債を減らす方が合理的でしょう。

 一部、現在の超低金利下(たとえば30年固定の住宅ローン金利が2%台など)では、住宅ローン返済を急がず、同時に毎月の余裕額を運用(期待リターン数%)に回した方がよいとの言説も散見されます。

 しかし、金利状態がどうあったとしても、本質的に「ローン返済は確実、投資のリターンは不確実」であることに変わりはありません。住宅ローンの返済は「無リスクで確実にリターンを得られる見逃せないチャンス」であるとも言えるので、ほとんどのケースでは、住宅ローンの返済を優先した方が「無難」だと思われます。

 投資未経験者のなかには、投資をすれば、期待リターン内外の利益が毎年コンスタントに得られると勘違いしているかたがけっこういらっしゃいます。たとえば、期待リターン6%のポートフォリオだったら、5%、6%、4%、7%、6%…といった調子で利益が得られるというイメージを持っていませんでしょうか?
 実際は、ひどいマイナスの年が続くこともあるし、20%とか30%とか大きくプラスの年もあります。長期にわたる投資期間を平均すればこのくらいの計算になる可能性が高いですよ、という程度の「目安」でしかありません。

 住宅ローン金利と投資の期待リターンは、単純に比較できるものではないという現実を知っておくと、後々「こんなはずでは…」と頭を抱えながら数年間を過ごすというような事態にならなくて済みます。

それでは、どんなハコの形が投資に適しているのか?

≪パターン4≫ 元気な現役世代の家計

≪パターン4≫ 元気な現役世代の家計

 (3)短期負債がない上に(4)長期負債も小さく、(X)自己資本が大きい。そして、(6)年間支出がよく抑制されていて、毎年の(Y)年間余裕額が多い。
 投資を始めるのに理想的な状態です。

 たとえ一時的に損失を被っても、毎年の(Y)年間余裕額の流入により、カバーできる余裕があります。ご自身のリスク許容度を鑑みて、心地の良い投資額・ポートフォリオで、投資を始めてみるとよいと思います。

≪パターン5≫ 潤沢な資産を取り崩す家計

≪パターン5≫ 潤沢な資産を取り崩す家計

 (3)(4)などの負債がなく、(1)金融資産が潤沢にある状態。ただし、(5)の年間収入は少なく、潤沢な(1)金融資産を取り崩しながら生活している状態。

 日本の高齢者世代に多い家計です。日本人の寿命は世界的にも長く、老後の期間は現役期間を超えるとも言われています。高齢者であっても、パターン5の状態で(1)金融資産が潤沢であれば、投資を始めることはアリだと思います。ただ、新たな収入に乏しいので、失敗した時のリカバリーがききません。手堅く運用する必要はあると思います。

 金融資産の額にもよりますが(たとえば100億円所有していれば1億円をどんな投資に使っても問題なしですが)、一般的には、リスク許容度は小さい家計であることが多いと思われます。少ない投資額にとどめるか、低リスクなポートフォリオにするか等の配慮が必要だと思われます。

 また、大金を所有していることで、頻繁に金融機関からのセールスがあるかもしれません。「私をお客さま扱いしてくれる」などと言って気持ちが緩んでしまうことのないよう、「自分がわからないものには投資しない」という鉄則を心に留めておくとよいでしょう。

 ただし、この世代にとって最も重要、かつ、金融機関は決して教えてくれないポイントは、あまり考えたくありませんが、「亡くなるまでに使い切れないくらいの資産があるのなら投資など必要ない」ということです。人生を満喫していただきたいと思います。

 以上、ざっくりとした簡易版ですが、投資をやっていい家計かやらない方がいい家計かについて、自分で「家計診断」する方法をまとめました。
 さて、あなたはどちらでしょうか?

 参考:「お金をふやす本当の常識」(山崎元著)、「MBA財務会計」(金子智朗著)

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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