ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―インデックス投資家の「リーサルウェポン」と言われる“VT”とは何か?

2013-03-08

 皆さん、“VT”とは何でしょうか?

 ビデオテープ (videotape)、バージニア工科大学 (Virginia Tech)、あるいは総合格闘技バーリ・トゥード (Vale Tudo)だったり、答えはいろいろでしょう。私たちインデックス投資家にとって“VT”とは、米国バンガードのETF「バンガード・トータル・ワールド・ストックETF」のティッカーです。

 “VT”は日本、先進国、新興国を含めた全世界の株式に投資するETFです。しかも、大型株だけでなく、中小型株も含んでいます。つまり、これ1本で、全世界のほぼすべての株式にまるごと投資できるので、インデックス投資家の間では「リーサルウェポン」と呼ばれています。

 過去3年のリターンは年率10.3%、リスク(標準偏差)は年率18.0%とパフォーマンスもなかなかのものです(2013年1月31日現在)。
※ただし、今後も年率10%で伸びるかどうかは誰にも分からないのでご注意を。

 この“VT”が最近、インデックス投資家の間でちょっとした騒ぎになっています。なぜなら、運用コスト(エクスペンスレシオ)が年率0.22%と低かったのですが、それが2013年2月28付で改定されて年率0.19%とさらに低くなったからです。

 もちろん、投資信託の評価軸はコストだけではありませんが、ひとつ言えることは、リターンは不確実、コストは確実ということです。コストは確実にパフォーマンスを押し下げます。低いに越したことはありません。

 この年率0.19%という運用コストがどれくらい低コストかというと、それはもう「アホみたいに激安」です。例えば、日本の投資信託の運用コストの平均が年率1.48%程度(2011年・モーニングスター調べ)ですから、7分の1以下です。車の燃費に例えると、リッター10km走る車とリッター70km走る車の違い、と言ったらその低コストさがお分かりいただけるでしょうか。

 一般に、私たち投資家にとって運用コストが低い商品は、その分、運用会社の儲けが少ないということになります。運用会社もボランティアではないので、利益を出さなくてはいけません。運用コストを引き下げることには当然抵抗があるはずです。現に、日本の運用会社が運用する投資信託では、運用コストの引き下げはほとんど行なわれていないというのが現状です。

 それでは、なぜバンガードでは、ただでさえ低い運用コストを、さらに低くするような行動に出るのでしょうか?
 いちばんのポイントは、バンガードの特殊な会社形態にあります。

 通常、運用会社は株式会社であり、株主が存在します。多くの場合は大手銀行や証券会社が株主になっています。株主は、当然の権利として運用会社に「もっと利益をよこせ」と言います。運用会社は投資家のニーズ(=運用コストを下げてほしい)と株主のニーズ(運用コストを上げてほしい)の板挟みになり、苦悩するわけです。

 そして、往々にして、株主のニーズを優先することになります。なぜなら、会社は株主のものだからです。その結果、運用コストが引き下げられることはほとんどなくなります。

 一方、バンガードでは、バンガードのファンドそのものがバンガードという会社の所有者になるという特殊な形態になっています。つまり、投資家=株主なのです。だから、「株主対投資家」という対立構造がありません。会社は株主のものなので、株主である投資家が喜ぶように、会社の収入が増えればそれをそのまま投資家に還元できるのです。

 バンガードは昨年10月、ファンドのベンチマーク(参照指数)をMSCIからFTSEに変更しました。その目的も、コスト削減でした。その結果、今回の運用コスト改訂につながっているのかもしれません。バンガードのファンドは今後、さらに人気が出るでしょう。

 バンガードは、コストが下がる→投資家の人気が出る→純資産が集まる→さらにコストが下がる→さらに投資家の人気が出る、といった「よいスパイラル」によって、現在では世界最大級の運用会社となっています。

 バンガードも最初から順風満帆だったわけではなく、紆余曲折を経て今の形態になっているのですが(機会があれば別に書きます)、日本の運用会社もこのような「よいスパイラル」を起こし、“VT”のような低コストな商品を作れるように頑張ってほしいものです。

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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