ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―投信全体の運用コストは上がる中、インデックスファンドは?(後編)

2013-04-19

 前回のコラムで、投資信託全体では信託報酬が年々上がる中、逆にインデックスファンドの信託報酬は下がっていることを取り上げました。私たちインデックス投資家にとっては、ありがたいことです。

 そして、先日発表された「EXE-iシリーズ」(2013年5月13日運用開始予定)は、既存のインデックスファンドに比べてさらに低い水準に信託報酬が抑えられており、コストに敏感な投信ブロガーたちが色めき立ったことを書きました。

 この「EXE-iシリーズ」は、低コストな海外ETF(上場投資信託)を組み合わせた、「ファンド・オブ・ETF」というべき形式なのがユニークなところです。運用会社は、ひとつのファンドを運用するのに2〜3銘柄の海外ETFを売買するだけであり、何百〜何千銘柄を自分で売買する必要がありません。このあたりも、「EXE-iシリーズ」の信託報酬が低く抑えられている要因なのかもしれません。

 ただ、「その海外ETFに、直接自分で投資すればもっと低コストでは?」という当然の疑問がわきます。その疑問はごもっともです。「EXE-iシリーズ」には、この投資信託の信託報酬と、投資先の海外ETFの信託報酬が、二重にかかる形になっているからです。

 たとえば、新興国株式に投資する「EXE-i 新興国株式ファンド」の信託報酬は年率0.4355%ですが、組み入れている海外ETFのひとつ「バンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF」(VWO)の信託報酬は年率0.18%です。その差、年率0.2555%の分、「VWO」の方が信託報酬が安いです。これだけ見ると、「VWO」に直接投資したくなりますよね。

 しかしながら、海外ETFへの投資は、誰にでもオススメできるというわけではありません。なぜなら、海外ETF特有の「クセ」があるからです。

 まずいちばん覚えておきたいポイントは、「海外ETFは小口の投資には向かない」ということです。

 どういうことか?海外ETFは外国株(たとえばアップルやコカ・コーラのような外国の個別株)と同じ扱いになっています。すなわち、購入時と売却時には売買手数料がかかります。しかも、日本株と比べて割高です。

 たとえば、SBI証券で上記の「EXE-i 新興国株式ファンド」を1万円分購入するとします。このファンドはノーロード(販売手数料0%)なので、購入時のコストはゼロです。
  一方、上記の海外ETF「VWO」を1万円分購入するとします(正確には、株数指定なので金額指定では買えませんが説明簡略化のため買えると仮定)。米国株扱いなので、売買手数料が26.25ドルかかります。執筆時の為替レート(1ドル98.11円)で円換算すると、約2,575円です。

 1万円分の「VWO」を購入するのに、2,575円の購入時コストがかかってしまいます。投資金額に対する比率は、実に25.75%にも上ります。これは、投資信託の販売手数料が25.75%あるのと同じで、これでは完全に「手数料負け」してしまいます。

 10万円分の「VWO」を購入するとどうでしょう。投資金額に対する売買手数料の比率は2.575%になります。コストが高い投資信託では販売手数料が2〜3%かかるものも多いので、2.575%というのはそのあたりと同レベルではあります。

 でも、思い出してみてください。「EXE-i 新興国株式ファンド」と「VWO」の信託報酬の差は、年率で0.2555%程度です。購入時に2.575%も余計に払ってしまったら、それを取り返すのに10年以上かかってしまう計算になります。

 では、100万円分の「VWO」を購入するとどうでしょう。投資金額に対する売買手数料の比率は0.2575%になります。年率0.2555%の信託報酬の差があるなら、1年ちょっとで売買手数料分は取り返せますので、ギリギリ許容範囲と言えるのではないでしょうか(このあたりは個人の感覚にもよりますが)。

 以上のことから、海外ETF投資は、1銘柄100万円以上の大口の売買がオススメであり、「海外ETFは小口の投資には向かない」のです。

 他にも、海外ETFには、為替手数料がかかること、分配金の再投資は自分でやらなければならないこと、ネット証券では特定口座に入れられず税務処理が面倒であること、など特有の「クセ」があります。これらのコストと手間を許容できる方が、海外ETF投資で“超”低い信託報酬を享受できます。

 「EXE-iシリーズ」は、海外ETFそのものと比べると信託報酬がやや割高ですが、海外ETFを組み込んだ「投資信託」とすることで、海外ETF投資の「クセ」をうまく回避してくれています。まとめると以下のとおりです。

◆売買手数料(販売手数料)
海外ETF : 高い(大口の投資に向く)
EXE-iシリーズ : ゼロ(積み立てなど小口の投資もOK)

◆為替手数料
海外ETF : かかる
EXE-iシリーズ : かからない

◆分配金の再投資
海外ETF : 自分でやる必要がある
EXE-iシリーズ : 分配金再投資を選べば自動(SBI証券の場合)

◆特定口座対応
海外ETF : ネット証券では非対応(納税は確定申告が必要)
EXE-iシリーズ : 対応(確定申告不要)

 このように、「EXE-iシリーズ」は、海外ETFの低コストさと投資信託の手軽さのいいとこ取りをしており、うまく作られた商品であると言えるでしょう。

 ただし、どの投資信託でも言えることですが、新規設定された投資信託にすぐに飛びつくのはあまりおすすめできません。運用コストは、信託報酬以外にも「隠れコスト」(2013年3月22日のコラム参照)もかかります。これは、決算後の運用報告書を見ないと、どのくらいかかったか分からない性格のコストです。

 しかも、「EXE-iシリーズ」のWEBサイトには、1期目の「隠れコスト」について、「2 期目以降より相対的に費用が高くなります」と明記されており、注意が必要です。私たち個人投資家としては、なにも急ぐ必要はありません。第1期の決算を待ち、「隠れコスト」を確認してから「EXE-iシリーズ」に投資しはじめても遅くはないでしょう。

 投資信託全体の運用コストが上がる中、インデックスファンドの運用コストはだんだんと下がっており、今後も新しい商品が出てくると思われます。運用会社のがんばりに感謝しつつ、よく吟味して賢く活用していきたいものですね。

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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