ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―円建てファンドはドル建てファンドより為替リスクが低い?

2013-05-02

 今からとても大事な話をします。とても大事であるにもかかわらず、世の中の多くのかたが勘違いをしています。それどころか、お金の専門家であるはずのファイナンシャル・プランナーですら間違っているかたがけっこういる話です。

 それは、「為替リスク」です。為替リスクとは、「為替相場の変動の影響によるリスクのこと」(野村證券証券用語解説集より)。「円」と「外貨」の交換相場である為替相場は、外国為替市場によって時々刻々変動するため、外貨建ての金融商品には、為替変動によって損益が生じます。

 いいですよね?ここまでは間違えている人はいません。問題はここからです。
例として、円建て、ドル建て、ユーロ建ての以下の3つの米国株ファンドがあるとします。

(1) 円建てのETFで米国株に投資するもの
  例: NYダウ30種ETF (大阪証券取引所上場)

(2) ドル建てのETFで米国株に投資するもの
  例: SPDR Dow Jones Industrial Average (NYSE Arca上場)

(3) ユーロ建てETFで米国株に投資するもの
  例: SPDR Dow Jones Industrial Average ETF (EUR)  (EURONEXT AMSTERDAM上場)

 いずれも、同じ指数である「NYダウ」の値動きに連動するETFですが、商品の通貨が違います。(1)は円建てですが、(2)はドル建て、(3)はユーロ建てです。

 さて、(1)(2)(3)のうち、「為替リスク」がいちばん低いのはどのETFでしょう?

 『うーん……、(1)は円建てだけど、もし為替レートが動いたら……ドル建ての(2)とユーロ建ての(3)は、より為替変動の影響を受けそうな感じがする……』
『よし、答えは、(1)がいちばん「為替リスク」が低い!

 そうお考えになりませんでしたか?むしろ、そう感じるがふつうの感覚かもしれません。しかしながら、答えは、
円建ての(1)も、ドル建ての(2)も、ユーロ建ての(3)も、「為替リスク」はまったく同じ
なのです。

 「円建てとドル建てとユーロ建ての商品で為替リスクが同じなんておかしい! だって、『外貨建ての金融商品には為替変動によって損益が生じます』と冒頭の為替リスクの説明にも書いてあったじゃないか。(2)(3)は外貨建ての金融商品だろう?」

 そういう反論が出てきてもおかしくありません。では、じっくりと解説をしてみたいと思います。

 上記3ファンドに投資してから10年後、米国株(NYダウ)が20%上昇したとします。同時に、為替変動があり、ドルの対円価値が倍に、ユーロの対円価値が半分になったとします。さて、この時の3ファンドの価格はどうなるでしょうか?

 実際にはこんなに大きく為替が動くことは稀ですが、分かりやすくするために極端な例にします。ちなみに、この時のユーロの対ドル価値は4分の1になる計算になります。

(1)円建てのETFで米国株に投資するもの
 米国株は20%増えたので1.2倍に増えます。しかし、ドルの対円価値が倍になった=円の価値が半分になってしまったので、為替を加味すると0.5倍に減ってしまいます。

 1.2×0.5=0.6倍

 ありゃりゃ。結局、投資元本の0.6倍(マイナス40%)になりました。

(2)ドル建てのETFで米国株に投資するもの
 米国株が20%増えたので1.2倍に増えます。ドル建てではめでたく1.2倍に増えて投資は成功です。
 ただし、円換算すると、ドルの対円価値が倍になった=円の価値が半分になってしまったので、0.5倍に減ってしまいます。

 1.2×0.5=0.6倍

 円換算すると、投資元本の0.6倍(マイナス40%)になりました。

(3)ユーロ建てETFで米国株に投資するもの
 米国株が20%増えたので1.2倍に増えます。しかし、ユーロの対ドル価値は4分の1になるので、ユーロ換算すると、なんと0.25倍に減ってしまいます。

 1.2×0.25=0.3倍

 うわあああ、投資元本の0.3倍(マイナス70%)に減ってしまい、投資はユーロ建てでは大失敗です。
 ただし、円換算すると、ユーロの対円価値が半分になった=円の価値が倍になったことになるので、2倍に増えます。

 0.3×2=0.6倍

 円換算すると、投資元本の0.6倍(マイナス40%)になりました。

 ほら、見てください。魔法のようですが、円建ての(1)も、ドル建ての(2)も、ユーロ建ての(3)も、円換算すると、結局0.6倍(マイナス40%)というまったく同じ投資成果に落ち着きます。投資対象は、いずれも米国株(NYダウ)で同じです。違うのはETFの通貨ですが、結局、投資成果は同じでした。つまり、将来の円転を前提に考えると、

 「為替リスク」は、投資対象の国の通貨に対して負うのであって、投資商品がどこの通貨建て(円建て、ドル建て、ユーロ建てなど)であるかは関係ない

 ということなのです。上記3ファンドの例では、「為替リスク」は投資対象の米国株(NYダウ)の通貨=ドルに対して負うのであって、ETFが円建てでも、ドル建てでも、ユーロ建てでも、「為替リスク」は同じです。

 投資商品がどこの通貨建てであっても、投資家が保有しているのはあくまで投資対象の現地通貨の資産です。ETFや投資信託の価格というのは、保有資産(現地通貨)を、取引通貨に換算して「一時的に仮表示したもの」に過ぎないのです。

 だから、例えば、日経平均先物を大阪証券取引所(大証)にて円建て買っても、シカゴ先物市場(CME)にてドル建てで買っても、シンガポール取引所(SGX)にてシンガポールドル建てで買っても、「為替リスク」はありません。

 同じように、MSCIコクサイ指数連動のインデックスファンド「SMT グローバル株式インデックス・オープン」を円建てで買っても、同じ指数に連動する海外ETFの「iShares MSCI Kokusai Index (TOK)」をドル建てで買っても、「為替リスク」は同じなのです。

 このことを知っていれば、よく見かける、「海外ETFは為替リスクがあるので慎重に」とか「円暴落に備えて外貨建て投資信託を」とかというような投資アドバイスは、かなり恥ずかしい間違いであることが分かると思います。円暴落に備えるのであれば、外国資産(外国株式や外国債券など)に投資していることが重要であって、投信そのものが円建てであるか外貨建てであるかは重要ではありません。

 繰り返しになりますが、「為替リスク」は、投資対象の国の通貨に対して負うのであって、投資商品がどこの通貨建て(円建て、ドル建て、ユーロ建てなど)であるかは関係ありません。覚えておいてください。

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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