ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―日銀保有ETFの含み益5,501億円はどのようにして生み出されたか

2013-06-14

 2013年5月29日、日本銀行が2012年度決算を発表しました。その中で、日銀保有ETFの含み益が、なんと5,501億円にのぼることがわかりました。

日本銀行 会計・決算
2013/05/29 第128回事業年度(平成24年度)決算等について

「資産買入等の基金」による買入有価証券(25/3月末)

「資産買入等の基金」による買入有価証券(25/3月末)

(日本銀行WEBサイトより引用)

 上記の表にある「金銭の信託(信託財産指数連動型上場投資信託)」というのが、ETFのことです。評価損益は5,501億円。1兆5,726億円の買値に対して5,501億円の含み益というのは、損益率が単純計算でプラス35%であり、なかなかの運用実績です。

 ちなみに、「金銭の信託(信託財産不動産投資信託)」というのが、REITのことです。評価損益718億円というのは、金額こそETFよりも小さいですが、損益率は単純計算でプラス60%となり、こちらもなかなかの運用実績です。

 これは日銀の資産運用能力が特別に高かったということでしょうか?
 いいえ、そうではありません。
 なぜなら、日銀は、お金儲けをしようとしていたわけではないからです。

 日銀の目的は、金融緩和の一環としての市場への資金供給です。市場の強い要望に押される形で、日銀は2010年に「資産買入等の基金」を創設、以来、株式市場が下落するたびに断続的にETFやREIT等を買い入れてきました。
 簡単に言えば、市場参加者から、「誰も投資したがらないからお前買い支えろよ」と迫られて、日銀はETFを採算度外視で渋々買っていたようなものです。

 当時、日本の株式市場が1%以上下がると買いを入れるという「1%ルール」があるのではないかと言われていました。現在でも、市場が大きく(1%以上?)下落すると日銀はすかさずETFを買い入れており、そのルールは生きているようにも見えます。もしそうならば、市場が下落した時に、「機械的」に買いを入れてきたということになります。

 そうやって下げ相場で何度も買いを入れていると、当然のことながら目先の含み損はどんどん拡大していきます。2011年上半期決算では442億円の含み損が発生したと、非難混じりの報道がなされていました。

 しかしその一方で、ETFの平均購入単価がだんだん下がり、それにともない損益分岐点も下がっていきました。そして、株式市場は回復し始めます。

 その結果、日銀は2012年度決算で、5,000億円以上の巨額の含み益を獲得するに至りました。日銀は金融緩和のために、下げ相場で「機械的」にETFを買い入れ、ただそのまま保有していただけですが、期せずして自分自身が儲かってしまったのです。
 市場がドン底だった時に、日銀にETFを買わせ、自分は買いを入れなかった市場参加者たちは、いったいどんな気持ちでこれを見ているのでしょうか。

 もちろん、株式市場がうまいぐあいに回復したからこのような形になったという面はあります。今後市場が急落してまた含み損に戻ることもありえます。

 それでも、「低迷相場で安く仕込んでおくことの大切さ」がわかるひとつの実例であることは間違いありません。これは、特に積み立て投資をしている投資家(通称コツコツ投資家)が、下げ相場でも積み立てを継続するうえで、役に立つ逸話のひとつになると思います。

 将来、株式投資で損失を抱え積み立てを続けるのが辛くなった時、保有資産を売り払いたくなった時、この逸話を思い出してみてはいかがでしょうか。

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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