ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―投信の新規設定額が多ければ「好調」、少なければ「不調」なのか?

2013-08-09

 マスコミでは、「きょうの投信設定」という情報が日々掲載されています。何のことかというと、その日に新規設定された投資信託の銘柄と設定金額がいくらだったかという情報です。

 新聞もマネー誌も、節目ごとにこの投信の新規設定額を集計し、新規設定額が多ければ「好調」、少なければ「不調」と報じます。

 この論調に、私たち個人投資家は、そろそろ異議をとなえる時が来ていると感じています。

 そもそも、現在の日本には、投信が4,183本もあります(2013/08/05現在、モーニングスターより)。これは、東証・大証統合後の上場企業数3,409(2013/07/31現在、東証WEBサイトより)よりもはるかに多い数です。

 「少額から多くの銘柄に分散投資できる」ことが特長のはずの投信の銘柄数が、上場企業銘柄数よりも多いというのは、いったいどういう冗談でしょうか?

 金融庁の第9回金融審議会での資料(2011/12/16現在、金融庁WEBサイトより)によると、米国の純資産額上位10ファンドには、5年前の上位10本のうち、現在も7本がランクインしています。これに対して日本は、5年前の上位10ファンドのうち、現在もラインクインしているのは3本に過ぎません。かろうじてランキングに残っているファンドも、その純資産額を大きく減少させています。

 
日本の純資産額上位ファンド(2011年11月末時点)
米国の純資産額上位ファンド(2011年11月末)

(上記、金融庁第9回金融審議会でのモーニングスター資料より)

 日本の投信業界は長らく、新規設定時だけ集中的に営業をかけて乱売し、それが終わると見向きもせず、次の新規設定投信を作ってまたそれを乱売するという「焼畑農業」を続けてきました。そのため、日本の投信は、数ばかりが増え続け、純資産上位のファンドの顔ぶれも毎年大幅に変わり、かつ、純資産は小粒なものばかりという事態に陥っています。

 日本では、運用会社は販売会社(証券会社・銀行等)の系列子会社であるケースが多く、良くも悪くも、販売会社の力が強い状況が続いています。いきおい、販売会社がてっとり早く販売手数料を稼ぎたいがために、上記のような「焼畑農業」が続けられてきました。

 運用会社も、親会社である販売会社の意向にはなかなか逆らえません。でも、新規設定時が純資産額のピークで、後は純資産額が減り続けるだけという環境の中では、まともな運用などできません。当然のことながら実績は奮わず、そのまま「流される」投信の数ばかりが増えてきたというわけです。

 日本の個人投資家は、そんなものを販売会社の営業マンの口八丁手八丁で買わされ続けてきたというのが、(悔しいですが)実態だと思います。

 本来であれば、良い投信はロングランで投資家の支持を集めるであろうし、投資家の支持が集まる投信は、純資産額も増加するはずです。そして、純資産額が大きく増加すれば、運用会社による信託報酬の引き下げが起こってもいいはずです。実際に、米国バンガード社では、純資産額の拡大に伴い、少しずつ信託報酬の引き下げが行われてきました。

 昨今、いわゆる「アベノミクス」効果で金融業界の手数料収入が潤っていると報道されています。しかしながら、現在の日本の投信の営業スタイルでは、販売会社(証券会社・銀行等)だけがブクブクと太る構図になっており、私たち個人投資家にまでその恩恵が十分に回ってきていません。

 そんな状況の中、いまだに新聞・マネー誌では、投信の新規設定額が多ければ「好調」、少なければ「不調」と報じています。そろそろ、投信業界のこの風潮に、個人投資家から「No」と言うべき時が来ているような気がします。

 どんなに時代が移り変わっても、投信の投資対象は、基本的に国内外の株・債券・不動産等であり、昔も今も、大きく変わることはありません。投信は、PCや家電などと違い、新しいものの方がより良いとは限りません。マスコミによる「新商品が良いものである」という論調に惑わされず、実績をしっかり確認して評価したいものです。

 個人投資家にとっての投信評価のポイントは、一に「コスト」、二に「リスク」、三四がなくて、五に「好き嫌い」です。このどこにも「新商品」は出てこないことを覚えておいてください。

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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