ブロガー水瀬ケンイチの等身大投資コラム―NISAの活況によって炙りだされた投信業界の問題点

2013-11-15

 各金融機関で、来年2014年1月からスタートするNISA(少額投資非課税制度)の顧客争奪戦が盛り上がってきました。

 非課税といううれしいメリットがあるNISAですが、投資家の利便性を阻害していると思われる欠点があることも、だんだん知られるようになってきました。例えば、非課税期間が5年と限られていること、非課税口座内で売却した分の非課税枠が消えてしまう(=非課税で再投資できない)ことなど。

 私たち個人投資家にとって、ふつうに「なんで?」と首を傾げたくなる欠点です。「どうせ金融庁や財務省がケチだからじゃない?」とため息をついて流してしまいそうなところですが、実は、それが投資家ではなく業界の方を縛るために意図的に埋め込まれているという指摘もされています。

 日本の投信業界の「高コスト投信」を「回転売買させる」という悪しき商慣行を封じるために、金融庁はあえて、NISA口座内で売却した分の非課税枠が消えてしまう仕組みにしたという話が、日経電子版でも取り上げられています(出典:日経電子版・マネー底流潮流  2013/09/23「活況NISAになぜ『あの欠点』が埋め込まれたのか」)。

 これはNISAの制度の話ですが、私はここに、そもそも日本の投信業界が抱えている問題点が凝縮されていると考えています。

問題点その1 日本の投信はコストが高い

 記事によると、日米の投信の販売手数料(購入時にかかるイニシャルコスト)を比較しています。12年末で日本が平均2.7%、米国が1.6%で、日本の方が高い。運用管理費用(保有中ずっとかかるランニングコスト)は日本が平均年率1.4%、米国が0.8%と、こちらも日本が倍近く高いです。

 日本は販売会社(主に証券会社と銀行)の力が強すぎることが原因だと言われています。系列の販売会社を持たない独立系投信のひふみ投信を運用する藤野英人氏によると、「投信販売は20年前より悪くなった」「銀行も手数料重視のビジネスモデルになった」「『手数料が低いとやる気が出ないんだよね』と販売会社に言われる」とのこと。

 また、ある銀行の個人営業担当の上級幹部A氏によると、「要するにお客のためのビジネスになってない。儲かりそうなストーリーを組み立てやすい投信で、手数料の高いものを売っている」とのことです。

 さもありなん。

 私も3年前、某投資セミナーである大手証券のかたと話す機会がありました。たしか、日本の個人向け投信と確定拠出型年金(DC)向け投信の運用コストを比べると、個人向け投信はコストが高すぎるという話をしていました。

 その時、大手証券の彼は、「日本の投信のコストが高いのは分かっている。でも、手数料が稼げる商品が現状で売れているのに、わざわざそれをやめるという経営判断をあなたならしますか?」と言いました。私は逆に、「あなたは本当にそれでよいと考えていますか?」と聞き返しました。彼は少し困った顔をしてこう答えたのを、今でもハッキリ覚えています。

 「2〜3年……いや、数年待ってほしい」

 あれから3年が経ちましたが、日米の投信のコスト差はむしろ広がる傾向にあります。もう2〜3年経てばなにか改善されるのでしょうか。

問題点その2 販売会社が顧客に投信の回転売買をさせる

 記事では、前出の藤野氏が証券会社の担当者から、「うちは、投信はだいたい半年たつと売って(乗り換えて)もらうんです。本当に長期投資なら、うちじゃない方がいいんじゃないですかね」と言われたことを明かしています。

 また、モーニングスターの朝倉氏は、「新規投信の多くで、販売開始後半年がたつと、純資産が急に急減し始めるケースが多くみられる」と指摘しています。記事では、「半年というのは、『乗り換え販売』批判に対し、購入後半年以内の乗り換え勧誘を自主規制している会社が多いからだ」と分析しています。

 さもありなん。

 販売会社にとって、購入時にかかる販売手数料が2.7%も取れる日本の現状では、1年かけて販売手数料の半分程度しか取れない運用管理費用(信託報酬)を、長期間かけてちまちま吸い上げるよりも、年に何度も新規投信を次々に買い替えさせた方が、てっとり早く利益を稼ぎ出せます。もっとも、これは販売会社から見れば経済合理的な行動であり、やっかいです。

 私が昨年参加した金融庁のブロガー向け意見交換会では、当局が販売会社の回転売買を問題視しているように感じました。また、今年3月に開催されたNISA勉強会では、金融庁の担当者が「日本の投信の平均保有期間が2.1年と短期保有に偏っているのを少しでも改善したい」と仰っていました。

 販売会社の回転売買に対する、金融庁の並々ならぬ意気込みを感じました。まさに、「金融庁 vs 販売会社」の構図です。でも、ちょっと待ってください。そこに私たち個人投資家の利便性の観点はあるのでしょうか……。

問題点3 私たち個人投資家側の問題

 上記2つの問題、日本の投信のコストが高いのも、販売会社が顧客に投信の回転売買をさせるのも、最終的には私たち個人投資家がそれを買ってしまうから、なくならないのだと思います。

 いくら販売会社のセールストークが巧みでも、彼らが勝手に顧客の口座へ投信を放り込めるわけでも、自由に投信を抜き替えられるわけでもありません。投資家が売買することを了承して初めて、それが実行できます。「投資は自己責任」の合言葉のとおり、投資行動の最終責任は私たち投資家にあります。

 投信にかかるコストは、低いに越したことはありません。将来のリターンは「不確実」である一方、かかるコストは「確実」だからです。投資家が投信の選択に際して、事前に比較できる要素のうち、コストは大きなウェイトを占めるはずのものです。

 もし、私たち個人投資家の多くが、

「運用管理費用(信託報酬)が高い投信は買わない」
「売買する時は、それにかかる販売手数料等のコストもしっかり意識する」

 というあたりまえの態度を取れば、販売会社側は自然に、それに応じた販売戦略を立て直すことになっていくと思われます。お上が出張ってきて、制度で縛るまでもありません。

 これら3つの問題点は、日本の投信業界に対して、長年ブログで指摘してきたこととまったく同じです。NISAの活況が、日本の投信業界の問題点を、あらためて炙り出しています。

 投信を売る方も買う方も、お互いにもっとしっかりしましょう。

水瀬ケンイチ
1973年東京都生まれ。都内IT企業勤務。
インデックス投資ブログ「梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)」を執筆、人気を博す。日本経済新聞やマネー誌などに数多く取り上げられる。著書に『ほったらかし投資術インデックス運用実践ガイド』(朝日新書)。 
(写真はTwitter @minasekのアイコン)

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